歓楽街に本社を移したSES── “会社の利益”はどこへ消えた?

2025/05/19
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知り合いのキャバ嬢のインスタに、かつて在籍してたSES企業の社長が写っていた。

わたしのプログラマデビューはこの会社からだった。
当時は残業代を出し渋る会社だった。

いまは違うんだろうか?


* * *


わたしは正社員として採用された。
入社直後から、有無を言わさず自宅から遠く離れた現場に派遣された。

面接時点では勤務地はまったく知らされなかった。まさかそこまでの遠方まで通勤することになるとは思っていなかったが、他に選択肢は無かった。

おかげで大手メーカーの情報システム部門に出入りして、プログラマとしてキャリアを積むことができた。Visual Basicを使って開発を進める現場だった。


誤解のないように補足しておくと、SESとはシステムエンジニアリングサービス(System Engineering Service)の略で、
一般的には自社のエンジニアチームを顧客企業に派遣し、現場で開発業務を遂行する対価として報酬をいただく形態を指す。


この案件には複数のパートナー企業から、経験年数やスキルセットの異なるエンジニアが派遣されていた。
ただしわたしの所属する会社の先輩エンジニアはおらず、実際には他社の先輩エンジニアの指示に従い、開発業務を進めた。


自社の営業に対し、質問したことがある。とくに指揮系統の部分に関して。
(20歳そこそこの小娘が「問い詰めた」とも捉えられる。)

いわく、彼の周辺ではこういった形態は珍しくないらしい。


当時のこの案件スキームは、2025年時点の派遣関連の法令に違反している可能性がある。
今後見かけてもあまり深く関わらないことを推奨する。


わたしたちエンジニアは現場で終電までパワハラを受けながら報酬を得る。
それが所属企業の利益になる。
またこの案件にエンジニアを参画させた営業に対して、紹介料が支払われている噂も流れた。




気づけばそのSESを辞めてから8年が経った。
会社のホームページを確認すると、いまも変わらずIT企業をやっているらしい。

新たにInstagramを開設していたようで、忘年会の様子が投稿されていた。
各地に派遣されている全社員を収容できる、規模の大きな会場を貸し切っていた。
ほかにもビンゴ大会や、功績のあった社員へ社長賞を授与している様子などが見受けられた。

当時も社内イベントは存在したが、社員数が少なかった。
なにひとつとして知った風景が存在しない、もはやまったく異なる会社に感じられた。


社長のInstagramプロフィールには、いまではIT企業だけでなく、複数の飲食店を経営していると書かれていた。

飲食店の住所は歓楽街一等地だ。
水商売関係者が気兼ねなく立ち寄れる時間に営業している。
この事情を考慮すれば、キャバ嬢のInstagramストーリーズに、酔った社長が笑顔で写っていた理由に納得がいく。

企業の目的はつまるところ、自社の利益の最大化である。
それが達成できる経営者であれば評価されるべきだろう。


ただ部外者ながら少しだけモヤっとすることがある。
私が所属していたIT企業の本社所在地は、以前はオフィス街だった。

このIT企業まで、歓楽街のど真ん中に移転させなくてもよかったのではないだろうか......?



* * *



この記事はSESを批判するものではない。
法律抵触ギリギリな、最低限度の生活の権利すら危うい現場にエンジニアを派遣した企業が、数年後どうなったかを紹介するものだ。


エンジニアには内向的な人間が多い。
(こんな零細アクセス記事を下の方までスクロールしているような、おまいらも例外ではない。)

社内イベントの開催で還元しているつもりかもしれないが、
多くの内向的な人間は、疲弊するだけだろう。

SES企業にとっての商材はエンジニアのはずだが、
「商材」を疲弊させる選択は、果たして最適だろうか?

エンジニアには十分な報酬や、潤沢な環境をもって、還元するべきだ。
あとは自由気ままに、なんらかの研究に没頭していく生き物なのだ。


この会社は昔も今も、内向的な人間を幸せしない方針を貫いている。
わたしとは相性が悪かった。
早々に会社を離れたのは、お互いにとって正解だったというわけだ。




これを読んでいる皆さまの中には、似たような会社や現場をいくつか思い浮かべ、顔をしかめている方がいるのではないだろうか。
現にわたしは苦虫を噛み潰したような顔で、この記事を書いている。

「キャバ嬢ちゃん見てるー?そのおじさんが払った食事代、わたしがパワハラに苦しみながら稼いだ報酬から出てますよー🤗」


こんな嫌味のひとつでも、どこかに投稿してやりたい。


実のところ、件のキャバ嬢とは同級生である。
彼女とは話す機会が非常に多かった。

時は流れ、かたや旨い飯を奢られる美女、かたや(元)長時間労働エンジニア。
世の中とは想像以上に狭く、残酷なものであった。




* * *


<当時の現場について書いた記事>
多重派遣な初現場の話 - trog
https://microayatron.com/multiple-dispatch/

<参考にしたページ>
SESとは?SES企業で働くエンジニアの仕事内容やメリット・デメリットを解説 |転職ならdodaエンジニア IT
https://doda.jp/engineer/guide/it/066.html

「SESなのに常駐先から指示を受けた!」元エンジニアのIT弁護士に学ぶ!今すぐ使える“労働関係”の知識【1】 - エンジニアtype | 転職type
https://type.jp/et/feature/18172/

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とろ(microayatron)
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Webアプリケーションのプログラマ(フロントエンドエンジニア) Angular(TypeScript) / Next.js / Cypress を主に使用。
前職はピアノ技術者(調律師)。2017年からブログ「trog」を運営。
あざらしと音楽が好き。

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